2023-03-17
世界トップクラスの行動認識AIをコアとした警備システムを開発するアジラが、ヒューマンサイエンスの研究を軸とした専門チーム・Human Science AI研究チーム(以下、HSAR)を2023年2月に発足。
本記事では、アジラのコア技術のひとつである「歩行解析」とHSARの研究がどのように繋がるのか、チーム立ち上げ発起人のアジラCTO若狭 政啓氏に話を伺いました。
歩行解析とはいわゆる「人間の歩き方」に着目した技術ですね。特徴的な動きから「その人が誰なのか」を特定する技術研究開発で、人間の歩き方に関する深い知識が必要とされる分野となります。
現在アジラでは、歩行解析においては主に「歩容認証」と「軌跡分析」の2つの研究を進めています。
「歩容認証」とは、歩き方の個性を使って人を識別する技術で、映像内で顔が判別できない位置でも歩き方を認識することで個人を認証できる唯一の技術です。
例えば防犯カメラの場合、距離や画角によっては顔が認識できず人物の特定が困難なことがありますが、歩容認証は50〜100m離れた場所からでも歩き方を識別することができるため、人物の特定が可能です。また、歩き方に着目していることから異なるカメラ間でも人物の特定や追跡が可能という点も特徴です。
また、「歩容認証」は、人間の身体的特徴を使って個人を認証する生体認証技術として、将来的には顔認証と同等の認識精度になる可能性があると注目を集めています。また、犯罪防止への取り組みや都市開発におけるレイアウト設計などにも活用が期待されています。
アジラで行っている「軌跡分析」とは、人が歩いた道筋(軌跡)から、その人の心理状態の特定や今後起こりうる行動を推測する研究です。
例えば、通常の人の場合はまっすぐ歩く傾向にありますが、ティッシュ配りやキャッチセールスなど一般の動きとは異なる人物の場合、何回も同じエリアを行き来したり、人に話しかけるというように、動きに違いが生まれますよね。軌跡分析では、このような動きの違いをAIが自動的に検知・抽出するというアプローチとなります。
また、「歩容分析」は「歩行」に着目しているため時間軸が数秒と短いのに対し、「軌跡分析」は「道筋」に着目しているため10秒前後と長期的な動きを対象としていることが違いのひとつです。AIの業界では、正常行動と異常行動を区別し検出する「Anomaly detection(異常検出)」というアルゴリズムが存在しており、弊社でも現在研究中で、プロダクトへの展開も検討しています。
このようにアジラでは、「歩容認証」と「軌跡分析」の2つのアプローチから「歩行解析」の研究を深めており、更にAIの検知・推測の精度を高めるべく研究開発を推進しています。
HSARの立ち上げに関する記事でもお伝えしましたが、歩行解析においてもアジラでは従来の「コンピュータサイエンス」に加え、人そのものへの理解を深める「ヒューマンテクノロジー」の2軸から研究を進めています。
これまではAIに様々な人の歩き方に関する学習データを与え、AIが自動的に学習するという「典型的なコンピュータサイエンス的アプローチ」を中心に研究を行っていました。しかしこのアプローチ方法の場合、AIが間違ったパラメーターで自動学習するリスクがあるため、ある程度の精度向上は見込みつつも、いずれ頭打ちになる可能性があるという懸念がありました。
そこでHSARではヒューマンサイエンスの知見を取り入れ、その視点から「AIが本来見るべきポイント(パラメータ)を付与していく」というプロセスを新たに取り入れています。ヒューマンサイエンスの知見が「AIの正しい道しるべになる」といった感じですね。
例えば、30代前半の男性の場合は歩行速度は約5.7km/時、平均歩幅は約70cmというように、人間の歩き方に関してはすでに学術的に明確な定義や統計的な分析結果が多く存在しています。このような「ヒューマンサイエンスから見るべきパラメーター」をAIに適応していくことで、アジラではAIの更なる精度向上を目指しています。
まだ感覚値ではありますが、成果はすでに見え始めていると感じています。その中でも「これまでAIの内部でブラックボックスだった事が少しずつ可視化できつつある」ということがひとつ大きな成果と感じています。
どういうことかと言うと、これまでのAIは予測精度を高めるために複雑に構成されているため、判断基準や根拠が不明確である「ブラックボックス化」が問題となっていました。ただし、AIにヒューマンサイエンスの視点が新たに加わったことで「このAIは歩き方の”この部分”に着目し判断した」というAIの判断軸や根拠が分かるようになりつつあります。
例えば、本来は肘の角度を見て判断すべきにも関わらず、AIは頭を見て判断してしまっていることがありました。その後、AIに間違っている点を指摘し「ヒューマンサイエンス的に見るべき視点(パラメーター)」を付与したことで、結果が改善し精度向上したケースもありましたね。
こうした「AIの見える化」により、ヒューマンサイエンスとAI双方の視点(パラメーター)が一致する整合性の取れた有力なモデルが発見できたり、反対にAIが見るべき視点と全く異なるパラメーターをみて判断している再評価対象のモデルを見つけることが出来たりと、きちんと選定できるようになりつつあります。
ヒューマンサイエンスの導入によりAIの更なる精度向上が期待される一方で、その先にはヒューマンサイエンスの理解を超えたAI が出てくる可能性があるのではないかと考えています。
例えば、現在のヒューマンサイエンスでは「頭は重要なパラメーターではない」と考えられていても、実は頭の動き方が年齢や性別に大きく影響している、というように既存の研究では考えられなかった新発見をAIが導く可能性もあるのではないかと。
実は、他の業界ではすでに「AIが人間を超える現象」は起きていて、身近な例ではレコメンデーションシステムなどが挙げられます。同じことがアジラが手がけている人間の行動に関しても今後は言えるかもしれない。まさにAIが人間を超えるという感じですね。
そうした可能性も念頭におきながら、アジラとしては完全に「ヒューマンサイエンスが100%正しい」という考えではなく、あくまで「ヒューマンサイエンスはAIの精度向上を実現するための知識」として活用することで「人間とAI双方のバランスの取れたAI開発」を目指しています。
アジラは、「Technology Driven Future」という理念をベースに、全ての人が安心・安全で暮らせる世界を実現するために、日々研究開発を行っています。特に、行動認識AIの分野においては、世界トップになるという強い思いを持ち、研究者やメンバーがチーム一丸となり、常に進化を続けています。
今後は更に弊社の行動認識AI技術の更なる進化を推進するとともに、全てのエンジニアが自身のキャリアを追及し、常にワクワクできるような環境作りの実現に向け、より一層努めて参ります。人間の行動に関するAIに興味ある方、ぜひ一緒に何か形にできればと思っておりますのでよろしくお願いします。
HSARに関するお問合せ: pr@asilla.jp 担当:若狭
2018年に東京工業大学大学院修了後、日揮株式会社に入社。 クウェート国建設現場駐在、プラント設計IT業務に従事。 その後、2020年に株式会社アジラに参画し、行動認識AIに関する製品開発を担当、IVAソリューション事業部統括に就任、2022年4月には執行役員CTO、2023年3月に取締役CTOに就任。