2023-03-17
行動解析AIというのは、骨格や姿勢をベースに時系列で人間の行動パターンをAIが解析する技術になります。例えば、人が転倒した際にはAIが自動で「人が倒れた、転んだ」と検知する、もしくは行動パターンから転倒に繋がる危険行動を検出する、というイメージですね。
一言で「行動」と言っても該当する動きは無限にあります。アジラでは警備に関連する行動「異常行動(転倒、卒倒、喧嘩、破損行為)」や「不審行動(ふらつき、違和感行動)」をピックアップして、独自のアルゴリズム開発を進めています。
アジラは、2017年から行動認識AIに着目し、2022年からAI警備システムを展開しております。導入後、お客様から当初のニーズに加え「より細かな行動も検知できないか」というご要望が増加しており、最近は警備領域に加えリテール領域への展開も進めていますね。
そしてお客様のご要望を叶えるべく、現在は更に細かな動きに着目した研究開発を進めています。
ー 細かな行動というのは具体的にどのようなものでしょうか?
万引きを例にしましょう。万引きは「実際にモノをとる」行為ですが、その前には長時間売り場を行き来したり、周りをキョロキョロと確認する不審行動をとったりと、さまざまな行動が組み合わさった結果行われることが多いのです。
転倒や侵入というような分かりやすい動きではなく、微細な人の動きや手を少し動かす、キョロキョロするというような微小な動きを検出して、複数の行動の組み立てを行うことができれば、更に検知の幅が広がっていくと考えています。
微細な行動の検知を積み重ねて検知結果を導くためには、人間的視点が必要となります。前述の通り、例えひとつひとつの行動が検出できても、人間の行動を理解した上で複合的に行動を導かなければ、正しい検知を行うことはできません。
予兆行動などの検知をおこなうためには、まず対象行動の前にどのような行動をするのかを洗い出し、発生しうる細かな行動へブレイクダウンする必要があります。加えて、それらの行動をAIに学習させ、定義づけをする必要があります。
具体的な例で説明しましょう。例えば「万引き予知」の場合、上記のように「そもそも万引きとはどのような行動から成り立つのか」を洗い出します。その中で、万引き行動の予兆として「売り場内を必要以上に徘徊している」「店員の動きに必要以上に注意を払う」などの具体事例をAIが読み解き、更にその行動を定義します。具体的な行動の微細な動きを学習させ、その複合性をもとに「万引きの予兆検知」ができるようになるのです。
このように、微細な行動を学習し、その積み重ねである行動の予兆検知などをおこなう場合、必ず「それらの行動を人は必ず行うのか」という課題があります。AIは行動そのものは学習しても、その行動を「人がおこなうものなのか」という判断は下せません。この「行動の定義づけ」という点において、ヒューマンサイエンス的な視点が必要となってきます。
精度の高いAIの学習には「質の高いデータ」と「適切なアルゴリズム」が必要なのですが、ヒューマンサイエンスの視点はこの2つにも欠かせません。
HSARでは、実社会で使われる実用性の高い技術を念頭に研究開発を進めており、その高い精度を保つべく独自の行動データベースの構築を進めています。この独自データベースは、「ビジネス視点」と「ヒューマンサイエンス視点」の組み合わせで構築されているのがポイントです。
例えば、研究における学習データはジェネレーティブAIで自動生成を行っています。このデータが「本来人間がしうる行動か」という点はAIは理解することができません。そのため、心理学などを使ったヒューマンサイエンスの観点から正しく判断をする必要があります。
またアジラの場合、ジェネレーティブAIで元データを生成するだけでなく、実際の人間の行動データも取得し、複合的に利用をしています。このように、AIのみで処理を行うのではなく、実際の人間のデータを反映させることでデータ自体の質の向上をはかるとともに、AIが生み出す行動データの質を上げ、研究のボトムアップを進めています。
AIの学習過程において非常に重要な役割を担うアルゴリズムの設計においても、HSARではヒューマンサイエンスの視点を取り入れています。
AIは万能ではないため、場合によっては人間の行動の違いを認識できず、正しいアルゴリズムを作ることができない場合も考えられます。
たとえば「転倒」は数秒という短い時間に起こる行動に対し「ふらつき」は数秒に渡り起こる行動ですよね。人間の行動を熟知している人はこうした動きの特徴や違いを正しく理解することはできますが、AIは必ずしも正しく理解し判断するとは限りません。
また「右手と右肘は繋がっているため、規則性ある行動をする」など、人間の普遍的かつ身体的特徴を加味したアルゴリズム設計が行動認識AIでは非常に重要となります。
AIが正しく学習できてない場合は、ヒューマンサイエンスの視点からAIに誤りを指摘し、正しい理解を促進するよう改善を図っています。
このようにアルゴリズム設計に関しても、人間の行動を深く理解する人間が設計に関与しなければAIの精度を向上することは厳しく、行動心理学や犯罪心理学といったヒューマンサイエンス的な手法を組み合わせる必要があると考えます。
アジラのプロダクトの最終的な目標は「事件・事故を未然に防ぎ、安心安全な世界の実現」。
その世界を叶えるためには、危険予知の実現を叶えるためのAIの精度向上が必要不可欠となります。
「危険予知」実現のためには、微細な行動を正しく検知し、その行動の組み合わせから危険な可能性をいかに察知できるかが鍵となります。どんな小さな行動もAIがきちんと検知し正しく行動を判断できるようになる高度技術の実現、そしてアジラのプロダクトに搭載し、幅広く実社会で利用可能なレベルにまで行動解析の研究を進めます。
アジラは、「Technology Driven Future」という理念をベースに、全ての人が安心・安全で暮らせる世界を実現するために、日々研究開発を行っています。特に、行動認識AIの分野においては、世界トップになるという強い思いを持ち、研究者やメンバーがチーム一丸となり、常に進化を続けています。
今後は更に弊社の行動認識AI技術の更なる進化を推進するとともに、全てのエンジニアが自身のキャリアを追及し、常にワクワクできるような環境作りの実現に向け、より一層努めて参ります。人間の行動に関するAIに興味ある方、ぜひ一緒に何か形にできればと思っておりますのでよろしくお願いします。
HSARに関するお問合せ: pr@asilla.jp 担当:若狭
2018年に東京工業大学大学院修了後、日揮株式会社に入社。 クウェート国建設現場駐在、プラント設計IT業務に従事。 その後、2020年に株式会社アジラに参画し、行動認識AIに関する製品開発を担当、IVAソリューション事業部統括に就任、2022年4月には執行役員CTO、2023年3月に取締役CTOに就任。