2023-08-02
近年、さまざまな業界や領域で活用が進むAI(人工知能)。自動化による業務効率や品質の向上、コスト削減などビジネス領域を中心に注目を集めるAIですが、既存の研究にAIを掛け合わせることにより、これまで以上の高度な作業や結果を生み出します。
この記事では、多くの期待が集まる歩行分析技術にAIを掛け合わせることでどのような結果が期待されるのか、実際にBS-TBS「報道1930」(2023年6月12日放送回)にて弊社の分析結果が取り上げられた「プーチン大統領の影武者調査」を例にご紹介します。
「歩容認証」とは、歩き方の個性を使って人を識別する技術で、顔が判別できない位置からの映像でも歩き方さえ認識できれば個人を認証できる”唯一の技術”です。
例えば防犯カメラの場合、距離や画角によっては顔が認識できず人物の特定が困難なことがありますが、歩容認証は50〜100m離れた場所からでも歩き方を識別することができるため、人物の特定が可能です。また、歩き方に着目していることから異なるカメラ間でも人物の特定や追跡が可能という点も特徴です。
従来、歩行分析は医学やスポーツ科学、バイオメカニクス、リハビリテーションなどの分野を中心に活用が進んでいました。近年ではAIの活用により、歩行分析の用途はさらに拡大されており、医療分野以外にも犯罪解決などまで活用の幅が広がっています。
「影武者」説が疑われるロシアの大統領・プーチン氏。影武者説の真偽を検証すべく、BS-TBS取材班とともに、歩き方から分析を実施しました。
弊社の歩行分析では、歩き方を比較した際に一致率が90%以上で本人と認証すると設定しています。
番組内では、複数の動画を基に検証を実施しました。
まずは、本人と思われるプーチン氏の2つの動画(左:2023年3月の中ロ首脳会談 右:昨年12月のルカシェンコ大統領との会談)を比較した場合、一致率は約94%でした。
一致率が90%を超えていることから、この2つの場面におけるプーチン氏は本人だと考えられます。
次に、影武者の疑惑がある3月のマリウポリ訪問(以下「対象①」)と昨年7月の海上軍事パレード(以下「対象②」)の比較検証を実施しました。
最新のAIを用いてそれぞれの歩き方を分析・比較した際に、以下のような結果となりました。
結果①:本人 vs 対象①の比較結果・・類似度86%(影武者の可能性)
結果②:本人 vs 対象②の比較結果・・類似度75%(影武者の可能性)
結果③:対象① vs 対象②・・類似度69%(別人の可能性)
以下、詳しく解説します。
まず、歩行分析で本人認証を行う時に、一番ポイントとなるのは「歩き方全体の傾斜」です。
全体的な歩き方は非常に似ているものの、唯一傾斜に関する相違が見られました。いくら歩き方が一見似ていても、歩き方全体の傾斜を完全に真似するのは非常に困難なため、どんなに真似しようとも類似度90%以上にはなりにくいと考えられます。
全対象を比較したところ、完璧に同じにはなってはいません。
プーチンの場合、本人は一瞬だが前屈みが強くなっているという特徴があります。
他の対象人物の歩き方を重ねて比較してみたところ、影武者は背筋が伸びて歩くという特徴があることが判明しました。
また、影武者の疑いがある「対象①」と「対象②」を比べたところ、類似度69%と低いことから、「対象①・対象②」は別人である可能性があると考えられます。
前述のように、歩行分析にAIを掛け合わせることで、さまざまなメリットが生まれます。
具体的にどのようなことに活用されているのか、実際の事例を紹介します。
◆医療・介護現場での活用
歩行の可視化により、質の高い治療やリハビリの提供が可能。
昨今では、認知症の早期発見にも活用されています。
◆スポーツ業界での活用
選手やアスリートの姿勢や歩容を分析し可視化。
身体のバランスとパフォーマンスの関係性を見たり、分析結果に応じてトレーナーと連携し、選手ごとに適切なトレーニングの実施が可能となります。
◆科学捜査での活用
歩容認証はカメラから遠く離れた人物の歩行に対しても適用可能なため、科学捜査などへの応用が期待されています。
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2018年に東京工業大学大学院修了後、日揮株式会社に入社。 クウェート国建設現場駐在、プラント設計IT業務に従事。 その後、2020年に株式会社アジラに参画し、行動認識AIに関する製品開発を担当、IVAソリューション事業部統括に就任、2022年4月には執行役員CTO、2023年3月に取締役CTOに就任。